TCKが語るTCK 〜文化・言語・アイデンティティー

4月 9, 20194

 

 TCKという言葉を知っていますか? TCK(Third Culture Kids)は、1960年代に社会学者のルース=ヴァン・リーケンが使い始めた言葉で、帰国子女など、子ども時代を母国以外の国で送ったマルチカルチャーを生きる子どもたちを指します。ファースト・カルチャーが両親の国の文化で、セカンド・カルチャーが子ども時代に住んだ国の文化とすると、TCKには、母国でもなく、外国でもない、サードカルチャーを生きる子どもたちという意味が込められています。

 TCK最大のグローバルネットワーク「TCkidNow」は、TCKのよくある特徴(あるあるネタ)を以下のように挙げています。「単一民族文化圏にいると違和感を覚える」「母国に戻ってカルチャーショックを受ける」「数ヶ国語がごっちゃになる」「なんだかんだいって、世界は狭いと思う」。

 TCKの心理面の傾向としては、「移動もしくは所属するグループ集団によって、ものの見方、考え方、行動が変化し、アイデンティティがたえまなく再編される」「周囲からのラべリング(レッテル貼り)に悩みやすい」「固定観念にとらわれにくく革新的なアイデアを生み出すことが多い」「家族が心のよりどころになることが多い」が指摘されています。

 幼い時から異文化間を生きてきた子どもたちは、何を考え、何を感じてきたのでしょうか。当イベントでは、3人の「元」TCKが、TCKとしての自分の生い立ちを振り返ります。文化・言語・アイデンティティーを巡って、TCKとして素晴らしいと感じたこと、悩んだこと、落ち込んだりしたことをみなさんとシェアし、TCKだからこそ見えてきた世界、人生観について語ります。

 根底に流れるのは、異文化を生きるすべての人への励ましのメッセージです。TCKが感じて来たことは、現在、TCKとして生きている子ども、かつてTCKだった大人のみならず、TCKを育てる親御さんやTCKの支援者、さらに異文化間に生きるすべての方に通じるインスピレーションを与えるに違いありません。心を込めて、みなさんを招待したいと思います。「ようこそ、TCKの世界へ!」

 

プログラム
21:00  はじめに​​
21:05  クロストーク
22:05  交流会 ドリンクとお菓子のご用意はできませんが、おもてなし気分で開きます。
22:45  終了。

※クロストークは、登壇者のみが画像をオンにし、レコーディングさせていただきます(参加者の顔は写りません)。
※交流会はオフレコになります。

 

登壇者​
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初田美紀子(はつだ みきこ)

両親は共に生粋の日本人。日本・東京在住。日本京都人の夫と3人の娘たちと共に暮らす。公認心理師、臨床心理士、家族相談士、ACTすこやか子育て講座(Adult and Children Together against Violence)ファシリテーター。

メーカー勤務の父親の海外赴任により5歳ー8歳/アメリカNYで現地の幼稚園・小学校に通う。その後、名古屋公立小学校に転入。英語が話せることに大きな羨望を寄せる日本社会に違和感を小2の頃より抱く。アジア人意識を強く根付かせたアメリカ生活より東京外国語大学で中国語を専攻。大学時代は中国安徽省に短期留学。卒業後、自動車/コンサルタント会社勤務 。産業カウンセリングとの出会いから臨床心理学大学院に進学/修士課程修了。適応指導教室・子ども家庭支援センターなどの行政機関にて臨床経験を積む。多文化外来精神科クリニックでの臨床活動継続中。2016年一般社団法人育ちネット多文化CROSS設立。人の健康と幸せのベースは”感情”の理解であると考え、活動の基本に置いている。

リンク
HP:www.crossactnet.com
FB : @mikiko.hatsuda.3

 

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Tetsu Yung(テツ ユング)

日本・台湾人のハーフ。カナダ・ケベック州在住。日本人の妻と3人の子供、両親、犬と共に暮らす。多言語・多才能子育てコンサルタントとして、AskTetsu.com, YouTube, Instagram, Facebook, Twitterなどで@AskTetsuとして、ユニークな”5ヶ国語”子育てライフを発信中。

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台湾のアメリカンスクール(小学校)からケベック州のフランス語系中学に留学し、その後カナダ国籍取得。2003年、分子生物学で博士号を取得した後、渡日。東京工業大学で5年間研究生活を送る。持ち前の言語能力を最大限に活かしたいとMBAを取得し、製薬企業に就職して活動の幅をビジネスへ広げた。結婚を機に、臨床開発業で”夢の在宅勤務”と巡り会う。2015年、理想の子育てのためカナダへ家族を連れて帰国。現在、カナダから日本の臨床開発をサポートする本業の傍ら、多言語・多才能子育てに情熱を注いでいる。

リンク
HP:www.asktetsu.com
YT/IG/FB/TW: @AskTetsu

 

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秋田まき

アメリカテキサス州在住。海外生活・国際恋愛専門カウンセラー、「海外こころのヘルプデスク24時」発起人。

3歳から4年間父の駐在に伴いオランダで過ごす。現地の幼稚園を経て日本人学校へ入学。帰国後、13歳で再び家族でオランダへ渡航、中学時代をアムステルダムのインターナショナルスクールで過ごす。15歳で帰国し、横浜市の私立高校をへて早稲田大学に入学。京都大学教育学研究科に進み、フランスへ留学したのち教育学で博士号を取得。いじめ問題の専門相談員となる。2007年、メキシコ国立造形美術研究所に所属。同時に大好きだったボディセラピーの仕事を始めてそのまま住み着く。2014年から2018年までメキシコシティ日本人学校にスクールカウンセラーとして勤務し、TCK、ハーフ(ダブル)の子供たちと親御さんの心理カウンセリングに携わる。現在はテキサス州にて「海外こころのヘルプデスク24時」でのボランティア活動と個人カウンセリングセッションを通して、海外在住者のこころのケアに注力している。

海外生活・国際恋愛専門カウンセリング
https://www.kaigaisoudan.com

 

イベントについて
開催日  日本時間 2019年4月9日(火)​ 21:00pm-​22:45pm(終了しました)
場所   Zoom上のオンライン会議室​​
定員   50名
参加費  無料
対象   TCK本人、TCKを育てるご両親。TCKに興味のある方。
主催   非営利相談機関「海外 こころのヘルプデスク24時」
ご注意
・レコーディングは公開されることがあります(交流会を除く)。
・お申し込みいただいた方に、当日のミーティングURLをお教えします。
・Zoomが不安な方のために、当日10分前から会議室をオープンにします。
・開始後はZoomの操作についてのお問い合わせにはお答えできません。
・途中退出は自由です。
・プログラムは予告なく変更になることがあります。

 


イベントレポート(動画あり)

「TCKの語るTCK 〜文化・言語・アイデンティティー」

テキスト:mary

 2019年4月9日、オンライン会議(Zoom )にて「TCKが語るTCK~文化・言語・アイデンティティー」というテーマでイベントが開催されました。

 現在、企業の海外進出、国際結婚の増加になどに伴い、ハーフ(ダブル)や帰国子女などに代表される、マルチカルチャーを生きる子供たちが増えて来ました。TCK(Third Culture Kids)は、子供時代を両親の母国以外の国で送った子供たちです。(第1)両親の国の文化、(第2)子供時代を過ごした国の文化、のいずれでもなく、(第3)サードカルチャーを生きている、という意味が込められています。TCKは何を考え、何を感じているのでしょうか?

 「海外こころのヘルプデスク24時」では、公認心理師・臨床心理士の初田美紀子さんと、多言語・多才能子育てコンサルタントのTetsu Yung (テツ ユング)さんをゲストとしてお招きし、ヘルプデスクの発起人でもある秋田まきさんと3人でクロストーク形式でイベントを進めていきました。3人ともかつて TCKだった経験から、TCK本人のみならず、TKCを育てる親や支援者など、異文化を生きる全ての人へのエールとして、熱いトークとなったことは言うまでも有りません。

 まず、まきさんから質問を投げかける形で、トークは進行しました。

Q1)マルチカルチャーの中で育って良かったこと、大変だったことは?
 良かったことはない、子供目線で言うと、適応、また適応の連続で大変だったと言う人がいる一方、多少のことはあったけどそれも「That’s life!」と受け止める事が出来たし、様々な文化が混じり合ってるからこそ色々な物の見方が出来るようになって良かった、と言う意見も。
 心理的問題は、それぞれの捉え方によってう、TCKと一括りに言うけれど、みんな違うね、ということをまず確認しました。(印象的!)

☆TKCあるある→親と子供の海外体験は微妙に一致しない。違う文化で育った親には理解出来ない事は、兄弟姉妹で共有していた。

Q 2)カルチャーショックはありましたか?
 親が海外に送り出すことを前提に、アメリカンスクールに入れて準備してくれたので、他の国へ行ってもカルチャーショックは少なかった反面、日本で就職した時に「ラジオ体操」にはびっくりしたと言う意見が。日本人の規律正しさに驚くと共に、古くなったものを変えることなく疑問も持たず普通に続けていることに違和感があったようです。

 また、外国ではなく、日本に対してカルチャーショックがあったと言う声も。親が言う「日本へ戻る」と言う言葉に抵抗感があった。TCKにとっては「日本へ行く」になる。日本の何もかもが新しく、びっくりの繰り返し。批判ではないけど、何か言うと意見を言ってるように受け取られて、そういう一つ一つの小さな積み重ねがあって、「話し出したらキリがないです」と思いが溢れ出す場面も。

 さらに、言葉に出来ない、今にして思うとストレスで、発疹が起きた経験の方もいました。日本に戻ってからは、分からない事がたくさんあって、一つ一つは小さなことなのに、その時は文化とか国とか大きなものに一人立ち向かっているような感覚を抱いたいと、当時を振り返りました。大人になった今はポジティブに捉えているけれど、一方で子供の時の視線で捉えた気持ちも忘れたくない、という思いも語ってくださいました。

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Q3)「適応」について考えることありますか?

 永遠のテーマ。それまで真面目にやって来て、特に社会人になってから日本人らしくない、適応していない自分を感じ、このままではやっていけないと、大きな喪失感を感じた経験を話してくださいました。

 相互に投げかけられた質問で、日本人を指す時に、「We」と言うのか「They」と言うのか、、、使う言語によって使い分けているかも=カメレオン的になるという回答から、その意味ではTKCは、集団によって使い分ける社会的スキルがあると言えるのでは、という声も出ました。
 適応するには、親がストレス感じ過ぎないことがマルチカルチャーを自然に受け入れる上で大事という指摘もあり、親の対応一つで、全然子供の感じ方が変わり、同じシチュエーションでも見方が違ってくる、と実験結果による説明もありました。

☆TKCあるある→論理的にTCKを分かるのは時間が掛かるもの。複雑なアイデンティティーをポジティブに見る、欠けてるところ探しをしないこと。親の教え、考え方って大きい!!

Q4)語学の習得はどうしてますか?
 とことん使う!使わなければいけない状況(環境)を作ることが大切!とご家庭の中で多言語を使い子育てしているTetsuさんの実生活が紹介されました。父(Tetsuさん)とは北京語、母(奥様)とは日本語、学校でフランス語、メキシコ人ベビーシッターさんとはスペイン語という自然に使う環境を作り、当たり前にしていく事が、その言語を喋っているという意識なしに話すようになるとの事。
 これには、言葉は文化を知りたいと思うこと、言葉は話せるかどうかよりその態度で受け入れられるかどうかである、などの意見も出ました。

☆TKCあるある→TCKが自分で選んで行く外国(留学とか)は大切。自分の人生が自分でコントロール出来た!と実感する。

Q5)TCKだからこそ持てた人生観や価値観は?
・人はみんな違うと肌で分かった
・人の作る社会だから基本はみんな同じという安心感を持った
・色々な文化のベストな部分を選択して、ユニークな自分を作る事が出来る

と、三者三様の回答をされました。(これも、TCKっぽくて面白い)
 でも、実は「自分の個性を大切にしつつ、他人を尊重すれば、どんな風に生きても良いんだよ、という事を知りました」と、皆さんが、異口同音におっしゃっているような気がしました。

Q6)アイデンティティークライシスはありましたか?
 ずっと楽しんで来たので、ない!とハッキリ言われる方に、TCKはみんな辛い訳ではないから、親御さんはあまり心配しなくてもいいらという話も出ました。

 一方で、日本にこだわっている自分を感じ、会社を辞めることで乗り越えられた体験をお話くださり、クライシスは悪いことではないと語られました。
 それに対して、アイデンティティーを国、人種、言語と結びつけすぎなのでは?もっと自分に出来ることに繋げた方がアイデンティティーの形成に繋がり、自信になるのではないかとの意見も出て、話は可能性を広げる教育論にまで発展しました。

 最後に、今のTKCに伝えたいことをフリップでご紹介頂きました。

 まきさん→あなたはあなたのままでいい(慣れなくていい、凸凹のままでいいよ)
 Tetsuさん→Focus on the positive(由来:Tony Robbins/ポジティブなことに人生をフォーカスすればうまくいくよ)
初田さん→困ったら、あなたの感情にきいてね(大人になっても変わらない自分に、自信もってきこう)
 というメッセージをいただきました。

 その後、3つのグループに分かれてグループディスカッションが行われました。短い時間でしたが、メンタル面だけでなく、渡航後の学校へスムーズに移行できるか、校風の違い、多言語教育の中での疑問、ハーフ(ダブル)の語学など多岐に渡った質疑応答が交わされ、日々さまざまなな問題に直面しているTCKを持つ親御さん達の真剣さと、TCKに寄り添いたい気持ちが伝わりました。

 「環境を作り、習慣化し、出来ると信じて進む」とTetsuさんから頂いた言葉は、TCKやTCKに関わる人達のみならず、これからのグローバル社会で生きていく全ての人へのメッセージのように感じました。あらゆる価値観が受け入れらるつつある世界の中で、海外在住者や海外に関わる私達一人一人の意識が動き出して行くといいですね。

 当日は33名の方がご参加下さいました。ありがとうございました。以下に、クロストーク部分の動画を公開しています。
https://youtu.be/QqdvIhItH-8

4 comments

  • 【参加者さんの声】

    4月 10, 2019 at 12:00 am

    私は日本生まれ、育ちの生粋の日本人で、子ども達はハーフで、TCKではありませんが、子ども達を今後TCKで育てていく予定なので、そういう意味でも参考になりました。
    まきさんの苦しかった経験もなるほどと思ったし、逆にそれをあまり感じなかったテツさんのキャラクターもなるほどと思ったし、その子どもが持つ気質を生かしながら、うまく気持ちを盛り上げていかないとなと思わされました。
    多言語を操るには楽しんで、とことん使う!そこがポイントだとも思いました。
    親として、どういうアプローチで楽しませるか…これが大きな課題でもあり、楽しみでもあります。
    子ども達にとっては、先輩方のお話を聞ける貴重な機会をありがとうございました。

    Reply

  • 【参加者さんの声】

    4月 10, 2019 at 12:00 am

    とっても興味深いお話、ありがとうございました。
    3人のキャラクターが三者三様で
    受け止め方は本当に人それぞれなんだなぁ、と思いました。

    たぶん私は秋田さんのようなタイプ、息子(と夫)はテツさんタイプで
    お友達にもいろんなタイプがおり
    「TCKだから」というステレオタイプはなくて
    根拠のない自信でガンガンいける子はそれはそれでいいし
    引っ込み思案な子供も「根拠のある自信」をつけながらゆっくりやっていけばいいだけのことで
    親も子も「こうしなきゃ」「こうあるべき」というのはないんだなーと実感し
    なんだか気持ちが軽くなりました^^

    日本へ戻ったときのカルチャーショックは
    私も一時帰国の度に毎回あって
    そのもどかしさ?思い通りにいかない感じにいつもモヤモヤしていたのですが
    初田さんの
    「日本に戻る ではなく 行く と考えれば良い!」という言葉にとても納得して
    今年の一時帰国は楽しくやれそうです^^

    こういったざっくばらんにお話する会がありましたら、ぜひ参加(あるいは聴講)させていただけたらと思います。

    今回は本当にありがとうございました。

    Reply

  • 【参加者さんの声】

    4月 10, 2019 at 12:00 am

    一言でTCKと言っても、個性や年代、年齢、地域などなどの要因で100人のTCKがいれば100通りの経験と経験談があるんだろうなぁと実感しました。

    TCKや異文化の間で育つ子供を持つ親は、自分自身がTCKであってもなくても自分の育った経験や知識があまり使えないところで子育てをする、という点において凄いことをしているのかもしれないと感じ、我ながら『実は凄いことしてる?』と自画自賛しています(苦笑)
    それと共に、他の人はどういう育て方をしているんだろう、というのも気になります。

    また、将来自分の子供が複数の文化を背負って(と言ったら大げさですが)大人になった場合、この子達はどういうものの見方や考え方をするんだろうという点に興味を持ちました。

    「異文化の間に育った子供が親になり、駐妻となったら?」
    (「海外こころのヘルプデスク公式ブログ」より)

    Reply

  • 【参加者さんの声】

    4月 10, 2019 at 12:00 am

    現在アメリカ在住で2人の育児に奮闘中の母です。

    この度は、イベントに参加させていただきありがとうございました。実際にTCKとして育ってこられた皆さまのお話が直接聞けて、大変参考になりましたし、戸惑いが多い異文化での子育てですが、自分が今まで感じていた不安な要素について「何とかなるのかな」という思いが芽生えて、少し気が楽になりました。

    Reply

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